工房しろくま
実機操縦体験の巻



2002年の2月に本業の所用でハワイへ行く事となりました。私としては米軍岩国基地以外で初めてアメリカ人が居る国へ行く経験です。半分は仕事ですので自由時間はほとんど無いのですが、パンフレットを探している間に実機の体験操縦を発見致しました。

当初ヘリコプターの遊覧を考えていたのですが、乗るだけよりも、少しでもスティックにさわりたいという欲望がむらむらとわき、数社をリストアップし検討致しました。
いろいろあるようなのですが(米軍戦闘機でマニューバ体験というのもありましたが)JTBのパンフレットにもありましたワシンエアーさんへHPから申込を致しました。(これが出発2日前)
ところが私の手違いでオンラインの申込が出来ておらず、結局出発の前日に電話での申込となりました。
丁寧な応対で一安心。(日本語)入国してからもう一度確認の電話をして下さいとの事でした。

そそくさと荷物をまとめ、3時過ぎ広島駅から新幹線で新大阪経由、関空に着いたのは7時前、10時20分のJAZの747に押し込まれやっと着いたハワイは遠かった。



ホテルから確認の電話をし、送迎の事について教えてもらいます。翌日19日、午前中に本願寺ハワイ別院での業務?を終えホテルに戻り迎えの車を待って、いざ出発。
ワシンエアーさんはホノルル国際空港の滑走路沿いにあるようで、敷地を半周して入ります。ここでセキュリティーチェック。

建物の中で書類の確認をし、計器板のレクチャーを丁寧に受けます。(ちょっと緊張)
待ち時間に屋外に出ると、セスナが数機、奥には大型のスケール機とも思えるピッツが一機。
裏手に回るとそこには本日乗る予定のパイパーが待機していました。
やはりピッツは小さいのだと変に感心。
待合室にはパイパー社の年表もあり(売ってるなら欲しかった)カブのJ3やらトリペーサーやらトマホークやら、模型ではなじみの機体がいっぱい。これだけでも嬉しいものです。
待ち時間がけっこう有り、その間に人間というのはいろんな事を考える物で「風が強いかな」「やっぱりパイパーより高翼のセスナの方が楽かな」「昔の2輪教習みたいに鬼教官だったらどうしよ」などとしょもない事が頭に浮かびます。

そうこうしてる間に教官が迎えに来て下さいます。
 パイパーアーチャー2
パイパーです。残念ながらパイパーチェロキーではありませんが親戚といえなくもありません。
ひとまず機体を遠巻きに見て回ります。あこがれのライカミングの水平対向6発。
教官に写真を撮ってもらい右側からステップに足をかけドア上のハンドホールドに手をかけて潜り込みます。(狭い)
パイパーは昨年展示用のチェロキーに入ろうとした事があったのですが、狭すぎて断念。軽飛行機はこういうものの様です。
体験操縦ですが、左側の機長席に座らせてもらえます。
シートの前後位置と上下位置を調整してもらい、ベルトを締めヘッドセットを付けたらエンジン始動。ちょっと苦しげに180馬力エンジンが目を覚まします。ヘッドセットが無いとけっこう中は騒々しい様です。

ラダーペダルの感触を覚えますが、当然操作はできません。左右独立のブレーキペダルもかなりこぢんまりしています。
教官の操作でタキシング開始。スティックの操作でエルロンの動作確認エレベーターは・・見えません。
この間教官は管制塔と離陸許可願いらしき交信。滑走路手前でしばらく待った後、離陸許可が出ます。

この時まで私は何もしないでいい物だとばかり思ってましたが、体験操縦はすでに始まっておりました。
 滑走開始
「じゃあいきましょう」という教官の優しい声でスロットルをじわじわ上げていきます。入るはずはないグランドループを心配してじわじわと軽い操作感のスロットルレバーを上げて行きます。当然反動と風で機首は振られるのですが、教官が絶妙にラダーで抑えて下さいます。対気速度計が60ノットを超えた辺りからじわっとアップを引きます。エレベーターの操作はけっこう重い感じがします。
浮くかな?と思った時には既に機体は地面を離れていました。非常に広大な滑走路のためあまり速度感はありません。

 あ・・もう浮いた
「1500フィートまで上昇しましょう」という事ですが、市街地上空はけっこう気流が乱れておりかなり揺れます。しかも離陸してすぐに右に進路変更。エルロンは非常にダイレクト(あたりまえなんですが)な感じでしかも軽く動きます。20度ちょっとのバンク。
この間気流に揺られ続けます。教官がせっせとラダーで補正して下さるのがわかりますが私は一生懸命。

 左手は真珠湾 ただいま右旋回中
思ったよりヨー軸の揺れがあります。本来なら操縦者がエルロンと同時にラダーも操作するのですが、体験操縦でそこまではできません。地上から操作する模型機と違いラダー併用の旋回も感覚でわかりやすいといえばわかりやすいです。
しかし、操縦している私には足までコントロールする余裕はございません。3chだけ。

さらに2000フィートまで上昇し巡航に入ります。目視による水平の確認(水平線)を水平儀と昇降計を一生懸命見てますがなかなか水平に飛ばない物です。エレベーターで強引に抑えてしまう模型機と違い巡航に適したエンジン回転というのがあるようです。
ちょっとだけスロットルも補正してみましたが、そう簡単にはいきません。

教官がビデオ撮影やら地上の風景の説明を優しくしてくれるのですが、よそ見をすると機体は傾きます。
この辺りから少しだけよそ見をする余裕も出てきたのですが、計器板すべてに目を通すのはなかなか大変な事です。
しかしこのパイパー、大型旅客機と違い非常に空気に浮いてくれる感じがわかります。
以前は飛行機に乗ってGが抜けるとちょっと気持ち悪かったのですが、Gが抜ける時の状況は増える時より機体には負荷が少ないとも思えるようになりちょっと慣れてまいりました。(別にアクロではないのでGもへったくれもないのではありますが一応)
非常に気持ち良いフライトです。

 北側の海岸線
海上に出ると地表からの上昇風は消え一転して機体は穏やかになります。眼下に青い海、珊瑚礁、あぁハワイ。
50数年前に戦争のために軍用機で同じ空を飛んだ日本人が居た事を少し思い出します。あの人達もこの美しい海を見ていたのだと、きっとそうだと思ってしまいます。

この後2000〜2500フィートを指示されながら海岸線に沿って飛びます。しかしこの島、至る所に米軍の滑走路があります。
左の席での操縦ですので右下の景色はあまり見えなかったのですが、美しい海岸、ジュラシックパークの撮影地などを通過する間に左舷下方に海上に浮上する物体を発見。エンジン音に反応した鯨が海面に浮上した姿でした。撮影して頂いたビデオにははっきりとは映っていなかったのですが、貴重な体験をさせて頂きました。

 普段は模型のフライトに使う眼鏡のしろくまさん
よく考えると離陸してこの間ずっと操縦していました。

海岸線にそってハナウマ湾からダイヤモンドヘッドを抜けホノルル上空に戻ります。この辺からまた揺れます。
着陸どうするんだろ?と思ってますと教官が「あの滑走路の交差してる辺りを目標に降下して下さい」とおっしゃいます。
エンジンはアイドル近く。普段70のエクストラで減速に苦労してる事を思うと信じられませんが、エンジンを絞ると機首下げにもかかわらず速度は案外落ちていきます。
「じゃぁこのレバーを引いてフラップ降ろして下さい」と言われます。電動だとばかり思ってましたがそれは車のサイドブレーキを少し長くしたような同じ物でした。フラップ1段で10度くらいでしょうか。ちょっと頭を上げ気持ちダウンを当てます。

どうやらこのままこの滑走路に降りるようです。

「はいフラップもう一段引いて下さい」で20度くらい。この辺りから機体を滑走路のセンターに合わせていきますが横風のためか多少のスリップはあります。ここは教官が丁寧にラダーで補正してくれますがエルロンは操作しなければなりません。
「もう一段フラップ引いて下さい」で30度でしょうか。もう地面は間近。「少し機首を上げて」に指示されわずかにフレア。
左翼が少し下がった状態でしたが極めてスムーズにメインから接地。教官の絶妙なラダーコントロールで事も無げに着陸。

降りました。

滑走路全長の1/3位を目標に降下したと思ったのですが、滑走路の真ん中辺りでは通常のタキシングでした。
(翌日国内線搭乗待ちで見てるとC5−Aギャラクシーが上がっていってました)
「お疲れさまでした」のねぎらいと共に、ブレーキもほとんど使わず減速、最後にはラダー操作でのタキシングまで体験させてもらいました。

大変に貴重な体験であると共に、非常に幸せな時間でした。
模型飛行機人で良かった。


駐機場であらためて機体を見ると、頑丈な脚にファットなタイヤ、エンジンカウルの吸入口は意外にも狭い様子。
ペラの前縁は研磨補正の跡がいっぱい。カウリングがコンパクトに見えたのは気のせいでしょうか。

とても丁寧かつ適切な指示の教官でした。有り難うございます。
FAIの滞空証明1時間分を頂きました。家宝になります。ありがたい。
今度来た時に使えるフライトログも頂きました。
スタッフの方に翌日のアロハ航空の予約変更までして頂き、感動でぼーっとしている私を渋滞のフリーウェイを走りホテルまで送って下さいました。

ありがとう



わずかな時間でしたが非常に貴重な経験でした。普段模型機のフライトでは地上から見た姿勢でしかコントロールできませんが機体の動きに対してどの様な重力や動きがかかるのかちょっとわかったような気もします。

60ノットで浮くパイパー、自動車での高速走行の危険も変な形で認識。
機体がしっかり整備され、天候が良好であれば非常に安定したフライトが可能な事もわかりました。

体験飛行1時間コースで180ドル、日本国内では実現不可能な料金もですが、アメリカの航空法だからこそ可能な体験飛行でした。


機会があれば、また行きたいです。



今回乗せていただいたのは
Washin Air Inc  ここから行けます。

遊覧飛行もですが、パイロット養成もしている会社です。
3ヶ月あれば米国での操縦士免許が取得出来るようですが・・・・ 時間さえあれば。
もっとも、航法や法規の勉強も必要ですし、管制塔との交信は当然英語、聞いてるだけなら半分くらいはわかりますが、難関な事は明白です。


翌日早朝、アロハエアーの737は同じ滑走路から強引に飛び上がり、積乱雲もなんのその、パイパーの揺れなんか可愛いもんじゃい!と大揺れに揺れてヒロ国際空港へ降りてくれました。

やっぱり軽飛行機が楽しい・・・。

2002/03/05


続編
2月のハワイ引率下見の続き、5月末から本式の引率で再びハワイです。最終日オプショナルツアー(これも引率&撮影)申込をしていたのですが、現地でキャンセルし再びワシンエアーさんへ体験操縦申込。早朝7時30分か午後3時という事でしたので早朝を申込。
後にツアーの間小倉さんからホテルの部屋へ確認電話が入っていたのですが、気付かず寝てしまいました。(ごめんなさい)


今回は友人同行(無理矢理・・・)、宿泊のヒルトンハワイアンビレッジに車で迎えに来て頂き、空港へ向かいます。
今回は飛行前の計器説明は省略。パイパーアーチャーの計器板ポスターが置いてあったのですが、持って帰られるサイズではありません。
シミュレーターなどで思うよりもっと実物は小さいのです。

機体を一回りした後、さぁ行きましょうか・・とフラップ後ろのステップに足をかけ、ドア上のハンドホールドに手をかけ、転がり込むように着座。
シートアジャストを終えたらエンジンスタートなのですが、朝のせいかかかりません。教官が混合気調整してくれますがキュルキュルとスターターが音を立てるだけ。
「うちのOSはもっと・・」などと思ってはいけません。バッテリー上がる?とおもう間にエンジンスタート、そして暖気。
この間にヘッドセットの調整もしておきます。

機体はいつのまにか教官の操作でタキシングを初めています。右膝をラインに合わせるようにと教えて下さりタキシング。緊張してつま先でブレーキを踏んでいました。
前回の着陸後に少しだけラダー操作をさせて頂いたのですが、まだ慣れません。ビデオを後で見ると肩は入ってるし、意味無くエルロンも打ってるし・・・。情けない。
急なターンはけっこう力が要ります。

1/3くらいしかわからない教官と管制官とのやりとり。自分で飛ぶには圧倒的に英語力は足りません。自分の機体(自分のではないですが)を呼ばれている事だけはわかります。
広い敷地を黄色いラインにそって延々と走り、滑走路の端っこで滑走路進入許可待ち。滑走路へ入り離陸許可待ち。さぁ離陸です。(緊張・・)
今回は東向き(4Lだから北か・・)の離陸、スロットルは前回グランドループを恐れてゆっくり上げましたが、今回は通常。でも多少反動トルクと風で進路が乱れます。
ラダーで適当に抑えながら60ノットを超え、穏やかなアップで離陸。「このまま引いてると戦闘機みたいに機首上げになりますから」と言う事でやや頭を抑えます。
10度程度の上昇角でしょうか。地上の乱流に揺られながらゆっくり上がっていきます。
ダウンを打った時のマイナスGに多少慣れ、雲は厚いのですがその雲の下をゆったりと教官の指示したコースに合わせながら(合いませんが)飛んでいきます。
後席の森井氏はこのへんからせっせと写真撮影をしていたようです。
適時教官がコンパスのマーカーを動かしてはコース指示をしてくれます。バンク角20〜30度。乱流にあおられてなかなか安定しません。旋回終了のタイミングがなかなか合わず、オンコースは遠い道。この辺は模型のアクロ機の様にぱっぱとはいきません。旋回終了後に微妙に合わせていきます。
ちょっとだけラダーも使ってみましたが、実機らしい旋回?にはほど遠い様です。(これはマスターしたいところ)

機体はワイキキのヒルトンを右手に見て、ダイヤモンドヘッドの上、ハナウマ湾から島の北側の海岸線に沿って進みます。高度はほぼ1500〜2000フィート。
地上に自機の影が見えています。(けっこう遅い)
ビデオ撮影をお願いしていたため、撮影ポイントでは教官がビデオカメラを片手に片手でひょいひょいと機体を操っています。あっけないくらい正確なバンクと旋回。
バンクすることに対する心配は無くなったのですが、機体の慣性に慣れるまではまだまだ遠い道です。(体験飛行だし・・)

北側海岸から2500に上昇しながら島を南に横断。軍のヘリコプターが3機すれ違うという事でちょっと緊張。管制官からの指示の前に低高度を飛ぶヒューズ500を発見しましたがあれではなかったのかもしれません。3人乗っているためフルパワーでもよたよたと上昇します。

ドールのパイナップル園を眼下に真珠湾手前に到着。さぁ着陸・・と思っていたら空港の着陸許可がなかなか下りず(混雑のため)真珠湾上空で旋回練習。8の字も。
前回は良く見えなかった真珠湾が眼下に広がります。(前回は離陸上昇・旋回でそれどころではなかった)
やっと着陸許可が出て、パワーを下げ800フィートまで空港方面へ降下します。
実機と模型機と最も違う所、「実機はパワーを絞ると穏やかな降下では機首下げの状態でも速度が落ちて行く事」模型アクロ機だとサイドスリップや急旋回で速度を殺すのですがこのあたりはかなり違います。空港に接近した時点で「Flaps 1notch」 例によってサイドブレーキ風手動フラップレバーをがっちんと1段。「Corse 220」で旋回
「Flaps 2notch」でもう一段フラップ。この後第3旋回。左手に滑走路4Lが見えてきます。「Flaps 3notch」で3段目、アイドルよりちょっと上のパワーでしたが、教官がちょっと旋回時パワーを足してくれます。ファイナルアプローチでかなりの急旋回(これで速度は着陸進入に適正な数値になります)、ホノルル国際空港4Lに向かって水平を維持しながら降下。ちょっと頭を上げようとしますが教官が「まだ上げない」と指示。滑走路端のペイントが見えたあたりからパワーをアイドルにし、ゆっくりと機首上げ。
今回は横風も無く、勿体ないくらいの滑走路の端っこへソフトランディング。

アイドルのまま滑走し、教官の指示に従い右へターン。タキシング中のスロットルは教官が操作して下さいます。B747や大型機の並ぶ中を延々と帰巣。
「Flaps zero」でフラップ戻し。このへんは英語のような日本語のような共通語。
ワシンエアー前の駐機場に戻って、教官の操作で駐機。メインキーオフでエンジンカット。帰投。

教官がてきぱきと航法の電源やあれこれを処理するのをほっと見ながら、後席の森井氏を先に降ろし、ヘッドセットを外して転がるように機外へ、ステップ壊さないように地上に降り立ちました。
 教官と記念撮影 (胴体が細くみえますな・・)右がしろくま

帰投後、機体はさっそく燃料補給をしていました。ロビンソンR22を格納庫から男性が一人で押して出しています。
お疲れさまでした。ありがとうございました。

「ライセンス取る時は言って下さいね」との教官の言葉に送られワシンエアーさんを後にします。無事終了。



初回はわけが分からない間に終わりましたが、今回は気流も安定しており少しは余裕があるはず・・でしたが、とんでもない話でございました。

フルパワーだとエレベーターアップはかなり力が要ります。
ラダーはサイドスリップを補正していくような感じ。
上昇時に機首上げで速度が落ちすぎる場合は、ダウンあてて機首を下げた方が上昇しやすい。
旋回終了時の戻しは気持ち早めに。
もっと積極的にスロットルを操作。

という事がわかったようなわからないような。やるほど難しさがわかるような気もします。
模型機の操縦と似た面も多くあり、実機の操縦体験は非常に有意義だと思います。
日本の免許に切り替えて広島で飛べるかというとそうそう生やさしいものではなく、「飛行機を飛ばす」というのは操縦の部分はほんのわずか(管制や航法や気象のウェイトも大きい)だとも感じました。
1時間づつですが、非常に有意義な体験をさせて頂きました。



またいきたいな・・・

2002/06/14



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