父の手



小さな子供には父親の手というのは非常に大きなものでした。
「ちょっと手かせ」と言って引っ張ってくれたり、物が壊れた時には何でもすぐに直してくれ、分からない事はなんでも書いて教えてくれ、何でもできる父の象徴が手でした。

父の手はあまりきれいだとはいえませんでした。カッターの傷跡、爪にこびりついた接着剤に塗料、煙草の匂い、オイルの染み、とても僧侶とは思えない汚れ方でした。その浅黒い小さな無数のしわのある手が大好きでした。

病床の父と何も言えずただ手を握り合った事も、もう戻れない過去の事です。

その力強い手はもうありません。

亡き人を偲ぶ、言葉で言えば簡単ですが、どうやっても戻ってくるものではありません。ああすれば良かったこうしておけば良かった、無念な思いばかりがのしかかってきます。

小学生だった私をしっかりと引っ張ってくれた父の歳に自分がなって、目の前に父の姿はありません。

ただ、あの時になんでもしてくれた父の手と同じ様相の手に、自分の手がなっています。

ありがたい事です。うれしい事です。



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2002/03/22

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